オーディオアンプのキモ その2
整流回路・部品・配線をどう考えるか
本章では、アンプ電源の中核である整流回路と整流用コンデンサー、さらにCR部品選択と配線材について、実務的・技術的な観点から整理します。オーディオ的な印象論に寄りすぎず、「なぜそうなるのか」を重視した内容です。
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1. 整流回路の基本と注意点
AC商用電源は、電源トランスによってアンプに必要な二次側AC電圧と取り出せる電流容量に変換され、その後、半導体ダイオードによって整流されるのが一般的です。
通常のシリコン半導体ダイオードでは、1素子あたり約1V前後の順方向電圧降下が発生します。
また、ダイオードのON/OFF動作に伴い、**電磁波ノイズ(スイッチングノイズ)**が必ず発生します。
このノイズは意外に大きく、場合によっては安全規格に抵触するレベルになることもあります。
そのため、整流回路には電磁波吸収用コンデンサー(スナバやバイパスコンデンサー)の設置が必須です。
● 真空管整流との違い
真空管整流では、半導体ダイオードのような急峻なON/OFFがなく、スイッチングノイズは基本的に発生しません。
この点が、真空管アンプで整流管が好まれてきた理由のひとつです。
● ショットキーダイオード
ショットキーダイオードは、順方向電圧降下が飛躍的に低く、整流効率を高めることができます。
ただし、逆回復特性が異なり、逆流が発生する期間があるため、回路設計時には十分な考慮が必要です。
● ファストリカバリダイオードについて
ファストリカバリダイオードは、もともと100kHz近辺で動作するスイッチング電源用として開発されたものです。
そのため、50/60Hzの商用電源整流に用いても、理論的・実測的に効果はほとんど期待できません。
2. 整流用コンデンサーの考え方
整流後の脈流(リップル成分)を吸収するため、電源回路ではアルミ電解コンデンサーが主役となります。
ここはアンプの安定性と音質の両面に大きく影響します。
● 近年の電解コンデンサーの特徴
近年のアルミ箔エッチング技術の進歩により、電解コンデンサーはかつての数分の一のサイズほどに小型でいて大容量化が可能になりました。
これは、電気分解作用が表面積に比例して容量を得られるためです。
しかしその一方で
- 残留抵抗成分(ESR)が必ずしも低下しない
- むしろ増大する場合がある
という問題があります。
結果として、電源インピーダンスが下がらず、アンプ動作の安定性には不利になるケースもあります。
● プレーン箔電解コンデンサーという選択肢
かつて存在したエッチングしないプレーン箔電解コンデンサーは、現在では容量が取れないため市販されていません。
しかし、このタイプは内部抵抗が低いという大きな利点を持っていました。
そこで
- 現代の大容量電解コンデンサー
- プレーン箔電解コンデンサー
をパラレル接続することで
- 低内部抵抗
- 十分な容量
を両立した整流用コンデンサー回路を構成できます。
現在では、大型ブロックコンデンサー1本よりも、このような並列構成の方が結果的に良好な音質になる傾向があります。
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3. CR部品と部品選択の現実
アンプ回路の主要な受動部品は、コンデンサー(C)と抵抗(R)です。
回路定数が決まった後、次に重要になるのがどの部品を選ぶかという工程です。
一般的には
- 部品を交換
- 試聴を繰り返す
という方法が取られます。
アンプメーカーの設計者の間では、やや自嘲的な意味も込めて、この作業を**「チェンジニア」**と呼ぶことがあります。
● 部品開発と評論家の関係
かつて評論家の故・金子英男氏は部品知識に精通しており、部品メーカーやアンプメーカーと共同で開発を行っていた時期がありました。
特に
- ニチコン
- 日本ケミコン
- エルナー
- 日立コンデンサー
といった電解コンデンサーメーカーが、数年間このような関係にありました。
フィルムコンデンサーでも2~3社が協力し、Vコン、ラムダコンといった製品が誕生しました。
抵抗では、理研抵抗社がリードへの金メッキなどを施したRM抵抗を開発しています。
金子氏は毎年バイロイト音楽祭に足を運び、NHK交響楽団の定期会員でもあり、常に聴覚を磨いていたことで知られています。
● 現在の状況
この20年ほどで、オーディオアンプ市場は縮小し、このような特注部品開発はほぼ行われなくなりました。現在、各メーカーが採用しているCR部品は、基本的に一般流通品です。
ケミコンメーカーにカスタム品を依頼しても、数量の問題から、対応できるのは外装印字の変更程度が現実です。
その意味では、現在はアンプクラフトファンの方が自由に部品を選び、楽しめる時代とも言えます。
ディスコンとなった高価な**SEコンデンサー(1個2,000円程度)**は、その象徴的な存在でしょう。
4. 配線材についての考え方
近年、電源ケーブルやスピーカーケーブルの高級化が広く行われていますが、ではアンプ内部の配線をメーカーはどう考えているのでしょうか。
現在のオーディオアンプはプリント基板化が進んでおり、内部配線は基板―端子間が主になります。
たとえば、アキュフェーズアンプで特別な配線材を採用したという話は、少なくとも公には聞かれません。
組立工数削減のため
- マルチケーブルを使用
- ハンダ付けを省略し、端子化
といった手法も一般的です。
アンプ内部の接続用配線としては、錫メッキなしの被覆より線で十分であり、特別な個性やクセは不要です。
むしろ、
- 安定性
- 再現性
- 組立品質
を優先すべき領域と言えるでしょう。
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まとめ
整流回路と電源部品は、音質以前にアンプの安定動作を支える根幹です。
- 整流素子の特性を正しく理解すること
- コンデンサーは容量だけでなく内部抵抗を見ること
- 部品選択は現実的な範囲で行うこと
- 内部配線は特別視しすぎないこと
これらを踏まえることで、地に足のついたアンプ設計が可能になります。

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