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スピーカーを知る ― 効率・インピーダンス・吸音材の本質

スピーカーを知る

効率・インピーダンス・吸音材の本質

スピーカーの仕組みを理解するうえで、まず押さえておきたいのは「振動を音に変える行為そのものが、非常に効率の悪い仕事である」という事実です。

本章では、その理由と設計上の妥協点、そしてアンプとの関係までを整理していきます。

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1. なぜスピーカーは効率が悪いのか

振動体(振動板)の運動を、空気の振動=音として放射することは、本質的に効率の悪い変換です。

その最大の理由は、振動体と空気との音響インピーダンスが極端にミスマッチしているためです。

このミスマッチを改善する最も素直な方法は、ホーンを用いたインピーダンスマッチングです。

高域では波長が短いため、比較的現実的なサイズでホーン化が可能ですが、中低域から低域にかけては話が別です。

低域をホーンで扱おうとすると

  • 物理的に巨大なホーンが必要になる
  • 家庭用としては非現実的なサイズになる

という問題があり、結果として多くの設計者やユーザーはここで妥協します。

これはプロ用スタジオであっても例外ではありません。

2. 振動板サイズと能率の現実

ホーンを使わない場合、効率を上げるためにできることは限られています。

そのひとつが、振動板のサイズを大きくすることです。

しかし、現実的な家庭用サイズでは、せいぜい38cmクラスが上限でしょう。

つまり

  • スピーカーを小型化したい
  • しかし能率は欲しい

という要求は、本質的に相反するものです。

小型スピーカーでは、効率低下を受け入れることが前提条件となります。

その結果、多くのスピーカーは音響変換効率1%以下という世界で設計されています。

ただし、ここで重要なのは「効率が低い=実用にならない」ではない、という点です。

1m地点で音圧90dBもあれば、家庭ではかなり大きな音量です。

名機として知られるBBC LS3/5Aは、能率がおよそ80dB/W/mと低効率ですが、それでも1W入力で1m・80dBを得ることができ、実用上まったく問題ありません。

実際、一般的なリスニングでは80dBもあれば十分であり、アンプ出力も1Wあれば成立します。

それにもかかわらず、市販アンプには100W級が珍しくありません。

これは「必要だから」ではなく、半導体アンプ技術の進歩によって可能になった結果に過ぎません。

3. スピーカーのインピーダンスカーブを理解する

次に重要なのが、スピーカーのインピーダンスカーブです。

多くのユーザーは「8Ω」「6Ω」といった公称インピーダンスだけを見がちですが、実際のインピーダンスは周波数によって大きく変動します。

典型的な2WAYスピーカーでは、100〜200Hz付近の中低域、つまり音楽のベースとなる帯域で、インピーダンスが公称値より大幅に低下します。

本来、低域をまともに再生しようとすれば、600リットル級の巨大なキャビネットが必要になります。

しかし現実のスピーカーは、多くが100リットル以下に抑えられています。

その結果、低域・中低域が不足する設計にならざるを得ません。

ここでスピーカー設計者は

「この帯域に、より多くのパワーを注入すれば改善できる」

という事実に気づきます。公称インピーダンスから外れても、結果が良ければよし──この思想を最初に押し進めたのがJBLだったと認識しています。

公称8Ωと表記されていても、実際にはこの帯域で4Ω以下になるスピーカーが珍しくなくなりました。

後年には、2Ω以下にまで落ち込む製品すら登場し、アンプの過大入力プロテクションが頻繁に作動する事態も発生しました。

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4. 真空管アンプと半導体アンプの違い

では、こうしたスピーカーを真空管アンプでドライブするとどうなるか

真空管アンプは、半導体アンプに比べて内部抵抗がはるかに大きいという特性があります。

NFB(負帰還)を14dB程度かけたとしても、半導体アンプの40〜60dBに比べれば、NFB量は桁違いに少ないのが実情です。

この違いを表す指標が、**DF(ダンピングファクター)**です。

  • 真空管アンプ:おおよそ 1〜8
  • 半導体アンプ:50〜1000以上

このため、真空管アンプでは

  • スピーカーインピーダンスが低い帯域では音圧が下がり
  • 高い帯域では音圧が上がる

という周波数特性の変動が生じます。

一方、半導体アンプは出力を変動させながら、スピーカーの周波数特性をフラットに保とうとします。いわゆる定電圧駆動です。

真空管アンプを好意的に解釈すると

  • 低域・中低域は控えめになるが
  • クロスオーバー付近は持ち上がり
  • さらに低域共振付近では大きく盛り上がる

結果として、量感豊かでリッチなサウンドになります。

特に無帰還アンプでは、この傾向がより顕著です。

この音を好む人こそが、真空管アンプファンと言えるでしょう。

5. 吸音材の本当の役割

スピーカーキャビネットの内部には、必ずと言っていいほど吸音材が入っています。

しかし、その目的を正確に理解している方は意外と少ないように思います。

キャビネット内部では、寸法比に応じた定在波が必ず発生します。

そしてこの定在波は有害ですが、吸音材程度では完全に防ぐことはできません

むしろ吸音材を多く入れると

  • 吸音材の質量が振動系に加算され
  • 振動板の能率が低下する

代わりに、周波数特性が低域側へ広がるという効果が得られます。

この設計思想を徹底したのが、ARスピーカーでした。

一方、バスレフ方式では、吸音材は「ほどほど」に留める必要があります。

入れすぎると、バスレフの動作そのものを阻害してしまうからです。

定在波対策として、B&Wが採用したマトリックス構造は非常に優れたアイディアです。

この構造によってキャビネット内部の共振を抑え、結果として同社は大きく成長したと考えています。

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まとめ

スピーカー設計とは

  • 効率の悪さを前提に
  • サイズ・能率・低域再生をどう折り合いさせるか

という、現実的な妥協の積み重ねです。

インピーダンスカーブを理解せずにアンプとの相性を語ることはできませんし、吸音材も「入れれば良い」というものではありません。

スピーカーを知ることは、アンプや音そのものを理解する第一歩なのです。

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